違法伐採木と違法取引、密輸停止を5

 

密輸の構造を問う!

 

         ラミンとメルバウをめぐって

 

―① 森林消滅・違法伐採のインドネシアから

 

―②違法材で利益を得るマレーシア、

   

    シンガポール、中国―

 

 ―① 森林消滅・違法伐採のインドネシアから

 

 

 

1998年にG8で「違法貿易の排除」を決議し、実施するとした。また2002年のヨハネスブルグ・世界サミットでも世界が「違法材の貿易停止決議」を採択した。また、国際熱帯木材機関(ITTO)でも、2002年から「違法貿易の停止」を掲げるようになった。

しかし、これらの国際的な取組み・決議や違法問題を取り締まる責務があるにもかかわらず、マレーシアとシンガポールは依然として、インドネシアで急速に消失し続ける森林を犠牲にし、利益をあげ続けていた。200410月、20057月にも半島マレーシア、シンガポールの会社等を訪れて、再度確認した。

ITTOの会議などでも以前、マレーシアは「違法貿易に停止決議」を求めるのにブレーキをかけていたのである。

 

2001年から、イギリス・アメリカの環境保護団体のEIAと、インドネシア保護団体Telapakは、マレーシア、シンガポール両国から輸出される木材のかなりの割合がインドネシアの違法材であり、違法に伐採されたインドネシアの木材の中継地としての役割を果たしていることを明らかにしてきた。またインドネシア・フォレスト・ウオッチやWalhi(地球の友インドネシア)は、「違法伐採がとりわけ横行し、森林破壊をすさまじくしており、直ちに違法伐採と違法貿易を停止すべき」とインドネシア政府などに働きかけている。しかし、違法貿易は止んでいない。なぜなのか。

 

1、インドネシア

インドネシア政府は例えば、国内の森林破壊の原因となっている違法伐採を抑制するため、2001年にラミン材のすべての伐採と輸出を禁止し、ワシントン条約(CITES)の付属書IIIに登録した。 

ワシントン条約には、シンガポールとマレーシアを含む155カ国が加盟している。ラミンはインドネシアとマレーシア、ブルネイなどにしか見られない樹種で、オランウータンの重要な生息地であるタンジュン・プティン国立公園、グヌン・パルン国立公園などのいくつかの国立公園でも違法伐採の対象となっている。その他各地域で違法伐採がくりひろげられている。

2005年秋、西カリマンタン州のNGOは、「ラミンは奥地の国立公園と保護区、ほとんど伐採にあっていない沼地にしか見られない。大半が違法伐採された」と私らに伝えた。

 

   こうした違法伐採・密輸を駆り立てている要因は、巨額を求めるビジネスであることが明らかだ。

ラミンを例にとると、カリマンタンの違法伐採者は13あたり2.20ドル(約260円)しか得ないにもかかわらず、加工された木材は国際市場では1,000ドル(約12万円)前後の値がつけられている。100倍以上に価格が上昇するからだ。だから密輸が横行する。インドネシアでラミンを販売するより、マレーシアへ密輸して販売するほうが儲かるのだ。それで、今でも違法貿易・密輸が続いている。

 

この2者の間には木材マフィアのネットワークが存在し、マレーシアやシンガポールからの者が多く莫大な利益をあげている。シンガポールではペーパー・カンパニーとなって工場もない企業がある。

例えばEIAとTelapakが報告したシンガポールの木材会社を20057月に訪問したところ、「そんな企業はここにないよ。あー、XXX社なら我々の企業の隅に事務所を置かせてほしいと、お願いがあり、5年ほど貸した。あの会社は2年前にどこかへ行ったよ。行き先はみんな知らない。」と

違う木材会社を訪問したところ、オフィスのみ。また他社を訪問したら、既にどこかへ移転して、管理会社に聞くも行方不明だった。シンガポールでは事務所のみの所も多い。

 

全国木材連合会の調査で、荒谷・新潟大学教授は次のように指摘     

している。

  「Agusu Selyalso氏によると、大規模な違法伐採組織は3タイプあるという。マフィアと同じような組織で、資金提供者はインドネシア人か外国人。彼らをスーパー・ボスと呼ぶ。彼らは、シンガポール、マレーシアなどの隣国に住んで、インドネシアの経済危機が来たときの対応策をするために、大半海外にいる」という。

「組織はマフィアと同様に、スーパー・ボスの下にビッグ・ボスがいる。

彼らは、ジャカルタ、メダン、バタムなどの海外と接点になるインドネシアの大都会の所に住み、国内事業を統括すると同時に、海外と連絡調整を行う。

 ビッグ・ボスの下に現場を統括するローカル・ボスがいる。彼らは地域のビジネスマン、議会関係者、行政職員であることが多い。

 

  グヌン・パルン国立公園で、違法伐採のローカル・ボスは、ケタパンのビジネスマン、行政職員であった。現場の統率・指導はローカル・ボスが行い、偽造書類作成するために、軍、警察、議会関係者とのコンタクトしているわけだ。それに協力するのは、元軍関係者、村長、地方役員、中央官庁職員、果ては森林事務所職員、運輸監督職員、税関職員、公安職員、判事も絡んでいる場合がある」と指摘する。

  Telapakが指摘している密輸王も地方議員であり、彼は特権を利用してラミン材など違法伐採の許可を州知事から受け、違法貿易を行っている。

 

「第1のパターンは、スマトラ型で、違法伐採に木材企業だけでなく、地域の住民が密接に絡んで違法に伐採し、合板工場などはそれを都合よく利用したり、違法な密輸をインドネシアから半島マレーシアへと輸送している。

第2のパターンはカリマンタン型。それは、違法伐採・違法貿易を大々的に実施してきている方法で、木材マフィアが非常に関わっているタイプである。公文書偽造や品名のインチキ記載を繰り返している」と荒谷氏はいう。

木材は、西カリマンタンからサラワク州へ陸送される場合と、海路を使いサラワクへ輸送するものがあり、東カリマンタンからは1980年後半から伐採木材に枯渇したサバ州に海路沿いに運送する。

  また、イリアンジャヤの場合は最近判明したことであり、中国、インド 

 向けの違法木材の輸出基地になっている。例えばイリアンジャヤのソ 

 ロン市内のホテルは、木材マフィアの溜まり場になっている。

 

TelapakEIAも同様に指摘している。

「ラミン材も違法伐採後に違法貿易された。メルバウ材も違法伐採された後、違法取引されており、ほとんど中国向けの家具、フローリング材にされている。

インドネシアでは毎年200万haの森林が消滅している。

近年メルバウの違法貿易を廻り、イリアンジャヤのジャヤプラのホテルなどに木材マフィアが滞在し、そこのホテルでビッグ・ボスが指示している」と、彼らは2005年5月に記者会見をした。

「メルバウも希少材だ。しかし、違法伐採・違法貿易が繰り広げられ、危機的である。インドネシア政府は、ワシントン条約で保護種としてメルバウを制定するべきだ」と緊急アピールしている。

 

インドネシアでは多くのNGOsの調査・告発、政府への申入れで違法伐採が減少したが、2009年、私たちが招聘した前林業大臣相談役トグ・マヌルン氏(現ボルネオ・オランウータン・サバイバルCEO兼議長)は、「今でもインドネシアでは、100万haの違法伐採がされているだろう」と語り、地域でも未だに違法伐採が続いている。

違法材はインドネシア国内の木材産業に流れ、地域住民が今も違法伐採を小規模に繰り広げている。だが、タンジュン・プティン国立公園の違法伐採停止のように、国立公園内での違法伐採は激減したが、保護林区のラマンドウ、グヌン・ニウトなどでは未だに違法伐採が実施されているのが、2010年の現状である。

 

 

 2、マレーシアとシンガポール

 A)マレーシアーー最大量の違法材取引

 

  マレーシアは、国内の森林と国内の木材生産量が減少したが、同国の木材加工産業は巨大な生産能力を維持し続けている。熱帯木材の輸出額が年間約25億ドル(約3000億円)、木製家具の輸出が約10億ドル(約1200億円)以上に上る。業界はインドネシアで違法に伐採された木材の輸入に依存している。

例えば、ラミン材でも2005年5月末日にHPで販売を記載している企業が多々見受けられた。2005年1月12日、マレーシア木材協会が「ラミンの御触れ」を出していてもである。

 

半島マレーシアやサラワク州、サバ州のそれぞれの港やカリマンタンとの国境からは、毎年300-400万m3の違法なインドネシア材がマレーシアに流れ込んでいると推測されていた。

 

2000年から3年間、EIAとTelapakは、サラワク州のセマタンやルボック・アントゥ、タビドゥ、マレー半島西岸のジョホール・バル、ポート・クラン、マラッカ、バトゥ・パハ、東海岸のクアンタンなど各地において、ラミンを含む違法なインドネシア材がマレーシアに持ち込まれていることを報告してきた。

 EIAとTelapakが20008月、サラワク州でした調査では、州営企業であるSarawak Timber Industry Development CorporationSTIDC)の一部門であるHarwood(ハーウッド)社が、カリマンタンから入手した違法材を加工している実態を明らかにしていた。  

後日、私たち・ウータンも現地を訪れ確認した。同様に、インドネシアからの木材はセマタン、ルボック・アントゥ、タビドゥの3ヶ所以上に運ばれていた。

ハーウッド社は、木材を分類して書類を発行するために13あたり22リンギット(約700円)を徴収するらしい。Sematan(セマタン)の港では、インドネシア国旗のインドネシア船から沖合いの停泊している巨大なバージ船に木材を運び、そこからマレーシアの船で粗く挽かれた製材がセマタン港のハーウッド社の施設に降ろされているのが見られた。これは国際熱帯木材機関(ITTO)のNews Letterにも掲載されている。  

ウータンの調査では「毎日、インドネシアから運んでいる」とのことを関連会社の1員からも聞いた。

海路で船に運ばれ、セマタンからクチンの木材工場に向けて、1日に約60台のトラックが出発し、そこからシブ、タンジュン・マニス港へ運ばれ、半島マレーシア及び海外へ輸出されるのが確認されている。

一方、ルボック・アントゥでは、西カリマンタン州との国境近くのハーウッド社の施設に大量の木材が積まれているのが発見された。残念ながらウータンでは詳しく確認できなかったが、インドネシアNGOらの情報によると、毎日50台前後のトラックが国境を越えているという。ルボック・アントゥ付近の地域にある製材工場は、ハーウッド社の関連であると言う。

 

 「2002年6月、インドネシア当局は、西カリマンタン州からサラワク州へ国境を越える違法材を積んだ15台のトラックを捕まえた。インドネシア当局は、エンティコンという国境において、1日に100台以上のトラックがマレーシアに向かっている」と話している。当局は、毎月50万m3近くの違法材が西カリマンタン州からサラワク州に入っていると推測している。

 

  2001年86日にラミンのワシントン条約への登録が発効した後、TelapakとEIAはマレー半島西岸の調査を行った。

Batu Pahat(バトゥ・パハ)港では、インドネシアの国旗を掲げた小さな木製の船から印の付いていない丸太の荷降ろしが行われているのが見られた。E.S.Ng Holdingsという会社の木材置き場で見られたインドネシア船の乗組員は、木材はカリマンタンからのラミンであることを認めた」という。半島マレーシア中部のマラッカでは、いくつもの小さな船がラミンを含む丸太の荷降ろしをしているのが見られた。船の乗組員は、「木材はマラッカ海峡をはさんだインドネシアのリアウ州からのものである」と話した。